まだ小さかった頃、庭には大きな窯があって
この季節、よく晴れた休日には家族総出でお茶摘みをした。
祖父母たちは積んできた茶葉を煎り、手もみして天日に干し、
その一年、家族がごぶごぶ飲んでも余るほどの番茶を作ってくれました。
少し大きくなると、お茶摘みはだんだんと祖父の役割になり、
総出で茶摘みなんていう悠長な時間はいつしかなくなって、
古い家の取り壊しとともに、大きな窯もなくなりました。
あの頃あたしは十代で、泥臭い自然のど真ん中で
その豊かさに見向きもせずに暮らしてきたこと。
今ならどんどんと移り変わってゆく生活様式の変化に、
笑顔で寄り添ってくれた祖父の寂しさを、
もうすこし理解できただろうと思います。
その歳になりその立場にならないとわからないこと。
今日は、隣りのお庭から、昔ながらに茶葉を煎る
芳しい香りがしてきます。
香りは小さなころの記憶をそっくりと映し出す。
教わっておかなくちゃならないことが
山盛りあることにハッと気付いた5月の昼下がりのこと。